第51章 『出張×誘惑』藤堂平助編**
同行した出張先でのこと。
その日は詰所が空いておらず、わたしたちは宿の広間で寝ることになった。
障子一枚で隔てられた部屋の向こうでは、すでに何人かの後輩隊士たちが寝息を立てている。
「平助くんと同じ部屋なんて、緊張しちゃう」
「ふふ、大丈夫だよ。今日は"我慢する日"だから」
そう言って笑う平助くんに、わたしはなんとなく、悪戯心が芽生えるのを感じた。
「ふぅん……」
さすがにこの状況で手は出せないだろうけど……
彼のその余裕の笑みを、少し、崩してみたくなった。
「おやすみ」
それぞれの布団に入った後。
そんな甘い企みを持って、わざと背後から平助くんにぴったりとくっついてみせる。
「平助くん、起きてる?」
「……こんなにくっついてこられて、寝られるわけないでしょ」
「どうして……?」
「っ、くすぐったいよ」
「……我慢、できない?」
くすっと笑ってみせたその瞬間。
――がばっ。
視界が揺れて、気づけば平助くんに押し倒されていた。