第56章 羽織る温もり、奪われた光 ※
その時、ジーニストが静かに口を開いた。
ジ「……都合、か」
少しだけ考えるような間。
そして、淡々とした声で言う。
ジ「上着を羽織るとき」
が顔を上げる。
ジ「は、上着の“都合”を考えるのか?」
「……え」
ジ「寒いとき、人は上着を羽織る」
夜風が、静かに吹く。
ジ「それは、都合のいいことだろうか」
言葉は穏やかだった。
でも、揺るがない。
ジ「違う。必要だから、羽織るだけだ」
一歩、近づく。
の胸が、静かに揺れる。
ジーニストの声は、変わらない。
理路整然としていて、落ち着いていて。
ジ「だから」
の前に立つ。
距離が、近い。
ジ「気にする必要はない」
視線が合う。
逃げ場がなくなるほどではない。
でも、目を逸らせない距離。
ジ「寒いなら、羽織ればいい」
その言葉は――告白だった。
の瞳が揺れる。
「維さん……」
その瞬間。
ジーニストの手が、そっとの頬に触れた。
驚く間もなく――
唇が、触れる。
ほんの一瞬。
けれど、逃げないキス。
理性を崩すようなものではない。
確かめるような、静かな口づけ。
の目が、大きく開く。
ジーニストはすぐに離れた。
ジ「……覚えておくといい。震える夜、立てなくなる日。その時は、私を羽織ればいい。私は、そのために編まれた糸だ」
声は、いつもと変わらない。
落ち着いている。
その瞳は、まっすぐだった。
ジ「君がどこへ向かおうと、私はここにいる」
の胸が、大きく揺れる。
守られるような言葉。
でも、決して縛らない。
まるで本当に。
必要な時だけ羽織る、上着のように。