第56章 羽織る温もり、奪われた光 ※
の背中に、ホークスの腕が回る。
強く、逃がさないみたいに。
その温度に触れると、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
(……っ)
ホークスの匂い、声、呼ばれる名前。
ホ「……」
その声に、心臓が跳ねる。
好きだ。
確かに、好きだ。
それなのに――
頭に浮かんだのは、少し前の夜、静かな部屋。
強く抱きしめられた腕。
「好きだ」「愛してる」と、告げられた声。
忘れたはずだった。
置いてきたはずだった。
でも、人の温もりは、記憶を呼び起こす。
ホークスの指が、の髪に触れる。
その仕草があまりにも、優しくて。
(……似てる)
比べるつもりなんてなかった。
比べちゃいけないって、わかってた。
それでも、守るような触れ方。
大切なものに触れるみたいな慎重さ。
(やめ…て……)
心の中で、叫ぶ。
思い出すな。
ここにいない人を、連れてくるな。
今、ここにいるのは確かに好きなホークスなのに。
でも、ホークスの腕の中で、は知ってしまう。
自分はまだ、壊れたままだと。
誰かの腕に抱かれていないと、立っていられないほど。
ホ「……大丈夫」
ホークスの声が、すぐそばでする。
ホ「俺がおる」
その言葉に、胸が、ずきんと痛んだ。
同じ言葉。
同じ意味じゃないのに。
ホークスは、未来を約束しない。
相澤や爆豪たちは、未来を信じていた。
なのに、今縋っているのはホークスの体温だった。
は、ぎゅっと目を閉じる。
(……ごめんなさい)
誰に向けた謝罪かも、もうわからない。
相澤たちに。
ホークスに。
それとも、自分が作り出してしまったこの壊れた世界に。
ただ一つ確かなのは。
この夜は、“癒し”じゃない。
これは、上書きだ。
相澤を、爆豪を、轟を薄めるための。
忘れるためじゃない。
思い出せなくなるための、夜。
ホークスの胸に顔を埋めながら、は、静かに思う。
(……これで、終わりにする)
心はまだ、誰かを置き去りにしたままなのに。