第56章 羽織る温もり、奪われた光 ※
ホークスの腕の中で、の呼吸がわずかに乱れた。
ほんの一瞬。
ほんの、ほんの一瞬――
心が、別の名前を呼びかけた。
(……消太、さん……)
声になる前に、喉の奥で、詰まる。
でも、その間をホークスは見逃さなかった。
抱きしめる腕が、強くなる。
逃げ場を塞ぐみたいに、ぐっと。
ホ「……今、誰を思い浮かべとる?」
の心臓が、跳ね上がる。
「……っ」
答えられない。
答えなくても、たぶん、わかってる。
ホークスは、の顎に指をかけて、無理やりじゃない、でも確実に、顔を上げさせた。
視線が、ぶつかる。
ホ「…今は、俺やろ」
いつもの軽さはない。
冗談も、笑いもない。
その距離で、まっすぐに。
息が、頬にかかる。
声が震えている。
ホ「イレイザーがどんだけ大事か、わかっとる。あの人が、をどれだけ支えとったかも」
一拍。
ホ「それでも、今は……」
ホークスの額が、の額に触れた。
ホ「思い出してもいい。忘れんでもいい。でも、今は」
唇が、触れるほど近くで。
ホ「俺が支える」
そして、はっきりと。
ホ「。……愛しとーよ」
その言葉に、の中で、何かが崩れる。
否定できない。
拒めない。
ホークスの想いは、ずっと、抑えられてきた分だけ、重かった。
ホ「……俺が上書きする」
低く、囁く。
唇が重なる。
逃げ道を塞ぐように、深く、深く。
「んっ……んん…」
相澤を忘れさせるためじゃない。
思い出す余裕を、奪うためのキス。
の胸が、苦しくなる。
でも、縋ってしまう。
壊れた心は、求めてしまうから。
ホークスの腕の中で、は、静かに目を閉じる。
(消太さん……ごめんなさい)
そして同時に。
(…啓悟……)
声には、ならない。
でも、その夜。
確かに、ホークスは“上書き”を始めた。