第53章 特別な日、愛される幸せ
自分でつけようとした、その瞬間。
爆豪がそっと手を伸ばした。
爆「貸せ」
「え?」
爆「俺がつける」
そう言って自然にの左手を取る。
その仕草があまりにも自然で。
思わず息を呑んだ。
左手。
その手首へ、爆豪はゆっくりと時計を巻いていく。
器用な指先。
優しく触れる手。
まるで、大切なものを扱うようだった。
その何気ない仕草が、一瞬だけ。
自分には縁がないと思っていた未来を思わせた。
まだ見たことのない幸せな未来。
誰かと同じ時を刻んでいく、そんな穏やかな未来を。
「っ……」
頬が熱くなる。
爆豪もその様子に気付き、少しだけ耳を赤くした。
爆「……動くな」
照れ隠しのようにそう言って、最後に留め具を閉じる。
爆「……よし」
は腕を持ち上げる。
ライトに照らされた腕時計が、静かに輝いていた。
「かわいい……」
何度見ても嬉しい。
爆「もっと良いのも考えた。でも、気ぃ遣うだろ」
は思わず吹き出す。
「ふふ。ほんと、勝己には何でもお見通しだね」
爆豪は少しだけ目を細めた。
爆「当たり前だろ」
一歩近付く。
爆「好きなんだから」
真っ直ぐだった。
「っ……」
何度言われても胸が苦しくなる。
嬉しくて。
苦しくて。
返事はできない。
爆豪も、それは分かっていた。
だから何も求めない。
ただ、気付けば腕が動いていた。
そっと抱き寄せる。
「勝己……っ」
温かい。
強く抱き締めるわけじゃない。
壊れ物を包むような抱擁だった。
爆「誕生日、祝えてよかった」
耳元で小さく響く声。
は腕を回さなかった。
ゆっくりと目を閉じる。
安心する。
でも、それと同じくらい胸が高鳴る。
しばらくして、爆豪はゆっくりと身体を離した。
爆「……戻るぞ」
「うん」
2人は並んで、生徒たちの待つ寮へと歩き出した。