第53章 特別な日、愛される幸せ
ケーキを食べ終え、みんなが談笑している中、轟が静かにのもとへ歩み寄った。
轟「…ちょっといいか」
「ん?」
頷いて立ち上がる。
轟の後について寮を出ると、建物の脇、人目につかない場所まで歩いた。
夜風が少し冷たい。
少しだけ沈黙が流れたあと、轟が口を開く。
轟「改めて……誕生日、おめでとう」
「ありがとう、焦凍」
その笑顔を見て、轟も少しだけ表情を緩める。
轟「……これ」
そう言って、小さな紙袋を差し出した。
「え……?でも、今日もうたくさん貰っちゃったよ?」
轟「これは……俺から」
少し照れくさそうに視線を逸らす。
轟「受け取ってほしい」
大事そうに袋を受け取る。
中を開けると、シンプルなタンブラーが入っていた。
落ち着いた色合いで、どんな場面でも使えそうなデザイン。
轟「寒ぃし身体、冷やさねぇように…」
照れ隠しをするように続ける。
轟「保温も保冷も効く。冬は温かいもの飲めるし、夏もちゃんと冷たい。仕事の時も使えると思った」
はタンブラーを優しく撫でる。
「ふふ、温かいのも、冷たいのも守ってくれるんだ」
そう言って、轟を見上げる。
「焦凍みたい」
轟「っ……」
まただ。
は何気なく言う。
でも、その一言で胸を掴まれたように苦しくなる。
「ありがとう。すごく嬉しい。毎日使うね。大切にする」
轟「あぁ…」
嬉しそうにタンブラーを抱えるを見つめていると、気付けば身体が動いていた。
そっと抱き寄せる。
「っ……焦凍?」
轟「……悪ぃ。の誕生日なのに、俺のほうが嬉しくなっちまった」
入学した頃よりも少しだけ広くなった背中。
安心するような、でも少しだけ胸が高鳴るような、不思議な気持ちだった。
やがて轟はゆっくりと腕を離す。
轟「中、戻るか」
少し照れたように笑って。
轟「……たぶん、次が待ってる」
「……うん」
“次”
その言葉だけで、誰のことなのか自然と分かってしまった。
クリスマスの日も、同じような流れだったから。