第52章 奪われた夜、青い炎 ※
相「……明日は朝イチで授業だ」
「……覚えてます」
相「……無理するなよ」
その一言だけ、少し低くなった。
は、ドアノブに手をかけたまま、一瞬だけ立ち止まる。
「……心配、かけてすみません」
相澤は、すぐには答えなかった。
数秒の沈黙。
そして、短く。
相「…心配、かけさせすぎだ」
でも、その言い方はとても優しかった。
は、わずかに笑った。
「……ありがとうございます、消太さん」
ドアが閉まる。
カチリ、と鍵の音。
相澤は、しばらくその扉を見つめていた。
相(……何もなかった、はずがない)
知りたい。
抱き寄せたい。
今すぐ確かめたい。
それでも――
相(…言いたくないなら、無理に聞かない)
それが、今できる最善だと知っている。
相澤は踵を返し、廊下の暗がりへ溶けるように消えた。
が部屋に戻ると、静寂が一気に押し寄せてきた。
ベッドに腰を下ろした瞬間、身体の奥が、ひくりと震える。
(……大丈夫)
そう思ったのに。
瞼を閉じた途端、思い出したくなかった温度が蘇る。
低い声。
耳元で囁かれた言葉。
乱暴じゃなかった、その触れ方。
(……なんで、あんな……)
優しかった。
それが、いちばん怖かった。
ふと、脳裏に浮かぶあの青い目。
胸の奥がざわつく。
自分が、燈矢を“ずっと好きだった”こと。
それを聞いた時の、あの一瞬の目を見開いた顔。
心臓が、きゅっと締め付けられる。
(でも……燈矢くんは……)
もう、いない。
そう聞かされて、そう信じてきた。
(だから、違う……)
違うはずなのに。
――荼「時が来れば言う」
その言葉が、何度も反芻される。
(……私、どうすれば……)
相澤、爆豪、轟、ホークス。
優しさばかりが浮かんで、それが逆に苦しい。
は、布団をぎゅっと握りしめた。
(……今日は、泣かない)
泣いたら、全部壊れてしまいそうだから。