第52章 奪われた夜、青い炎 ※
教師寮が見えてきたところで、向こうから歩いてくる影がある。
寝癖のついた黒髪。
気だるそうな目。
轟が足を止める。
轟「……相澤先生」
相澤の視線が、に移る。
一瞬だけ、状況を測るような沈黙。
相「……。ホークスと一緒にいたって聞いた」
淡々とした声。
相「……なにかあったのか?」
は、答えに詰まる。
言えない。
言葉にしたら、崩れてしまう。
「……いえ。なにも」
短く、そう言った。
相澤は、すぐに分かった。
これは、“なにもなかった”顔じゃない。
でも、“言いたくない”顔だ。
相澤は、それ以上聞かない。
ただ、轟の方を見る。
相「……そうか。轟、もう消灯時間だ。俺が引き取る」
轟は一瞬だけ迷ってから、頷いた。
轟「……お願いします」
の肩に置いていた手を、静かに離す。
その代わりに、相澤のコートの影が、を包む。
相「……戻るぞ」
低い声。
逃げ道のない、でも安心できる声。
は、静かに頷いた。
「……はい」
2人が歩き出すのを、轟はその場で見送る。
胸の奥で、さっきの“青い目”が、また一瞬だけよぎった。
でも――今、の隣にいるのは、“守る側”の人間だ。
轟は、何も言わずに背を向けた。
相澤は教師寮の前まで行くと立ち止まり、明かりを一度だけ見上げた。
部屋の前まで行くと、優しい声が落ちてくる。
相「…今日はもう休め」
それだけ。
抱き寄せない。
肩にも触れない。
は、小さく息を吐く。
「……はい」
鍵を開ける間、相澤は背中を向けたまま動かない。
逃げないか見張るわけでもない。
ただ、そこにいる。