第52章 奪われた夜、青い炎 ※
飛び上がる瞬間、の体がわずかに強張った。
それに気づいてしまって、何もできない自分に、歯を食いしばる。
夜空を切りながら、二人は無言で進む。
は、ホークスの胸元に顔を埋めない。
ホークスも、抱き寄せない。
それが、暗黙のルール。
ホ(……出会わなきゃ……)
一瞬そんな考えがよぎって、すぐに否定する。
違う。
出会えたから、ここまで来た。
でも。
ホ(……それでも……俺は……)
守ると決めたのに。
触れさせたくなかった相手に。
雄英の灯りが見えてくる。
ホークスは、いつもの声で言う。
ホ「もうすぐ着きますから。……安心してください」
それが、今できる精一杯の嘘だった。
雄英高校の門が見えたところで、ホークスはゆっくりと高度を下げた。
夜の校舎は静かで、昼間の喧騒が嘘みたいに、空気が澄んでいる。
ホ「……着きました」
それだけ。
は小さく頷き、腕の中から降ろされる。
地面に足がついた瞬間、少しだけ身体が揺れて、は無意識に一歩下がった。
ホークスの手が、反射的に伸びかけて、途中で、止まる。
触れない。
触れたら、もう戻れなくなる。
「……ありがとうございました」
事務的な礼。
ヒーローに向ける、正しい言葉。
ホークスは笑う。
ホ「いえ……気をつけて」
それだけで、全部。
「ごめん」も「帰したくない」も「大好き」も、全部、飲み込んだ。
は一度だけ、振り返る。
言葉はない。
でも、ほんの一瞬だけ視線が絡んで、すぐに、外れる。
門の向こうへ、の背中が消える。
ホークスはその場に立ったまま、動けずにいた。
ホ(……行くなって、言えなかった)
言う資格も、言える立場でもない。
ただ、送り届けた。
それだけ。
ホ(……それでも……)
胸の奥で、何かが静かに崩れた。