第52章 奪われた夜、青い炎 ※
夜道に出た瞬間、風を切る音がした。
次の瞬間、羽根が舞う。
ホ「さん!」
聞き慣れた声。
けれど、そこに感情は乗せられていない。
完全に、仕事の声。
ホ「今までどこに……!探しましたよ!」
近づいてくる。
でも、触れない。
視線だけが、全身をなぞる。
乱れていない服。
歩き方。
目の色。
ホ(……生きてる)
それだけで、喉が詰まりそうになる。
「ホークス……さん……」
名前を呼ぶだけ。
それ以上、言えない。
ホ「大丈夫ですか?怪我は……何か、されましたか?」
聞いている誰かのための言葉。
連合の、解放軍の耳のための、確認。
でも内側では、抱きしめたい。
確かめたい。
上書きしたい。
それなのに。
ホ(……綺麗すぎるだろ……)
壊されていない。
乱されていない。
それが、逆に胸を抉った。
ホ「……守れなくて、すみません」
それは、ヒーローとしての言葉。
任務中の、形式的な謝罪。
けれど声の奥に、ほんの一瞬だけ、どうしようもない後悔が滲んだ。
は、少しだけ目を伏せてから、首を振る。
「いえ……怪我とか、してないので……大丈夫ですよ」
淡々とした声。
感情を落とした、無事の報告。
それが、あまりにも綺麗すぎた。
ホークスの喉が、ひくりと鳴る。
ホ「…そうですか。良かった…」
笑顔を貼り付ける。
“問題なし”の報告としては、満点。
でも。
ホ(……違うだろ……)
怪我がないから、大丈夫?
心が削られてない保証なんて、どこにもないのに。
ホークスは一歩距離を保ったまま、手を差し出す。
ホ「とりあえず……雄英に送ります」
触れない。
踏み込まない。
は一瞬だけ、その手を見てから、静かに頷いた。
何も言わない。
言えない。
聞かれているから。
そして、言ったら、全部壊れてしまいそうだから。
ホークスはを抱え上げる。
必要最低限の動作。
仕事としての距離。
それなのに、あまりにも近くて、苦しい。
壊されると思っていた。
けれど現実は、“丁寧に、何事もなかったように返された”。
その事実が、ホークスの胸を静かに引き裂いた。