第52章 奪われた夜、青い炎 ※
夜は、もう深い。
軋む床の音だけが残る空き家の中で、は静かに眠っていた。
呼吸は規則正しく、睫毛も微動だにしない。
荼毘はしばらく、その様子を見下ろしていた。
触れれば起きてしまいそうで、触れなければ、このまま消えてしまいそうで。
荼「……」
小さく息を吐き、しゃがみ込む。
乱暴に扱うつもりは、最初からなかった。
壊すために連れてきたわけでもない。
それでも、欲しかった。
欲しくて、手放せなくて、あの日の“続き”を、どうしても終わらせたくなかった。
濡らした布で、の体を丁寧に拭く。
指先が触れるたび、無意識に力を抜いてしまう。
荼(……甘ぇな)
自嘲するように、口の端が歪む。
服を整え、乱れた髪を戻し、最後に、額に触れそうになって、やめた。
荼(ここにいたら……また、欲しくなる)
それだけは、駄目だった。
返すと決めた。
だから、ここで終わりだ。
荼毘は立ち上がり、背を向ける。
振り返らず、何も言わず、ただ静かに、その場を去った。
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どれくらい眠っていたのか、分からない。
は、ゆっくりと意識を浮上させた。
知らない天井。
古い家の匂い。
でも、身体が妙に軽い。
起き上がろうとして気づく。
服は整えられていて、肌も、きれいだった。
「……?」
乱暴に扱われた形跡は、ない。
痛みも、傷も。
ただ、残っているのは触れられた“記憶”だけ。
(……優しかった……)
それが、一番混乱させる。
ホークスの触れ方。
相澤の、大きくて安心する存在。
爆豪の、真っ直ぐで熱い想い、眼差しと手。
轟の、距離を守る優しさ。
それと、同じだった。
(……なんで……)
荼毘は、敵だ。
怖い存在のはずなのに。
それなのに。
胸の奥が、ざわつく。
ひとりで、帰らなきゃ。
そう思って、立ち上がる。