第52章 奪われた夜、青い炎 ※
薄暗い室内。
窓は板で塞がれ、外の音はほとんど遮断されている。
古い家特有の、埃と湿気の匂い。
その中央に、荼毘はをそっと下ろした。
乱暴じゃない。
投げることもしない。
まるで、大切なものを扱うみたいに。
独り言のように呟き、指先での頬に触れる。
熱を確かめるように、ほんの一瞬。
荼「……相変わらずだな。寝てる時まで警戒心ゼロ」
く、と喉の奥で小さく笑う。
荼「昔からそうだった」
――“昔から”。
その言葉が、空気に引っかかる。
しばらくして、の指先が微かに動いた。
睫毛が震え、ゆっくりと目が開く。
「……っ……?」
視界が定まらない。
古い天井。
知らない匂い。
そして――青い炎の色を宿した、冷たい目。
「……荼……毘……?」
名前を呼ばれた瞬間、荼毘の表情が、ほんのわずかに緩む。
荼「よォ、」
声は低くて、落ち着いていて、誘拐した人間のものとは思えないほど穏やか。
は身体を起こそうとして、自分が逃げられない位置に寝かされていることに気づく。
「……なん、で……」
問いかける前に、荼毘がしゃがみ込む。
荼「わかんねぇよな、何も」
視線が同じ高さになる。
「どういう…意味……?」
荼「聞いたか?ホークス、触れんなって叫んでたぜ?自分のものでもないくせに、必死に」
昔を思い出すように、視線が一瞬だけ柔らぐ。
荼「……なぁ、。俺、お前に触れんなって言われる筋合い、あったと思うか?」
答えはないのに、問いかける声だけが妙に優しい。
「っ……」
荼「どう思う?なぁ。こんなに昔からずっと想ってンのに、そんな筋合いねぇよな」
の胸が、わずかにざわつく。
「……昔……?」
記憶を探る。
連合に連れ去られた時はそんなに昔でもない。
それ以外、思い当たる顔はない。