第52章 奪われた夜、青い炎 ※
拳を握る。
爪が掌に食い込むほど、強く。
ホ(……分かってる。ちゃんと……返ってくるってことも……)
任務の条件。
荼毘の私情。
どれも把握している。
それでも。
ホ(……触れられるのが……俺じゃないってだけで……こんなに……)
胸の奥が、鈍く、軋む。
ホ(……嫌だ……)
ぽつり、と。
初めて心の中で零れた、本音。
抱かれること。
触れられること。
あの手が、の肌に触れること。
全部、想像してしまう。
ホ(……俺が……守るって決めたのに……)
最後まで言えない。
ヒーローだから。
スパイだから。
感情より、結果を選んだから。
ホ(……俺が公安じゃなきゃ……俺たちは……)
そこで、言葉を切る。
もしも、を考えるのは――
一番、残酷だから。
ホ(……戻ってきたとき……どんな顔して……俺は……)
迎える資格があるのか。
触れていいのか。
笑っていいのか。
分からない。
ホ(……俺が……)
ふと、胸の奥に浮かんだ言葉に、自分で自分を殴られたみたいになる。
ホ(……俺が……好きだなんて……)
思っただけで、喉が焼ける。
ホ(……おこがましい……)
守れなかった。
触れさせたくなかった相手に、差し出した。
“選択肢がなかった”なんて、言い訳でしかない。
ホ(……こんなことしておいて……想う資格なんて……)
あるわけがない。
ホ(……抱きたいとか……一緒にいたいとか……そんなの……)
全部、奪われた側の感情じゃなく、奪った側の欲だ。
ホ(……それでも……消えない……)
思えば思うほど、汚れていく気がするのに。
ホ(……忘れろって……切り離せって……できるわけ……)
ない。
ホ(……だから……想うだけでいい……)
声にはならない誓い。
ホ(……触れない……望まない……期待しない……)
それが、自分にできる唯一の贖罪だと信じるしかなかった。