第52章 奪われた夜、青い炎 ※
青い炎が揺れ、荼毘が腕の中のを軽く抱え直す。
その声は、まるでペットに命令するかのように淡々としていた。
荼「……脳無」
その一言で、脳無たちの動きがピタリと止まる。
中途半端な姿勢で、命令を待つ“道具”のように固まった。
ホークスへ向けていた攻撃も、羽根を掴もうとしていた腕も、中途半端な姿勢で固定されたみたいに。
ホ「……脳無だなんて、聞いてない。それに……」
一瞬、言葉が途切れる。
ホ「……時間も、まだ、かなり早いはずだろ」
その軽口は、もう“ヒーローのホークス”としての皮一枚。
声の奥は、震えていた。
荼毘は、の頬にかかる髪を、皮肉なほど優しく払う。
荼「悪ぃな。……俺なりの歓迎さ。ずっと待ってたからよ」
ホークスの顔色がわずかに変わる。
ホ「……っ、勝手すぎでしょ……!」
荼毘は薄く笑う。
その目は、ホークスの焦燥を楽しんでいる捕食者の目だった。
荼「お前の役目は終わった。約束は守る」
ホークスの歯が、キリッと音を立てるほど食いしばられた。
ホ「っ……!」
荼毘は、力なく眠るを抱えたまま、踵を返す。
青い炎の向こうで、荼毘が口の端を歪める。
荼「じゃ、ご苦労。こいつ借りてく。安心しろ――ちゃんと返すさ」
にやり、と。
約束のようでいて、何ひとつ保証にならない不気味な笑み。
夜風が、羽根の隙間を通り抜ける。
屋上にはもう誰もいない。
の体温だけが、空気に薄く残っている。
ホ(……俺の……せいで……)
声にはならない。
喉を通したら、全部崩れてしまう。
ホ(来るなって……あんなに必死に……触れさせたくなくて……)
守りたかった。
隠したかった。
誰の手にも渡らない場所に、閉じ込めておきたかった。
それができない自分だと、分かっていたくせに。
ホ(……それでも来たんだな……)
暗号を解いて。
危険を理解して。
それでも、選んで。