第52章 奪われた夜、青い炎 ※
高層ビルの風が頬を切る。
ホークスは横目でちらりとを見た。
ホ「この前の本、読んでくれました?」
言い方は軽い。
でも瞳の奥は…必死。
「……はい。全部」
その短い返事に込められた意味を、ホークスは理解していた。
――“あなたの言葉も暗号も全部わかってる。でも私は来た。”
ホークスの指が、ほんの少しだけ空を掴むように震える。
ホ「……そっか。いや、読んでくれて……嬉しいっすよ」
嬉しい。
けれど、“嬉しい”がこんなに苦しいと感じたのは初めてだった。
ホークスは屋上の縁に立ち、わざと風を感じるように肩をすくめた。
ホ「うわ、寒っ。ここ、風強いな〜」
寒さなんかじゃない。
胸の奥に押し寄せる冷たい恐怖のせいだと、にはわかっていた。
ホークスの笑顔が、どこか軋んで見えるほどに。
はそっと歩み寄り、小さく息を吸う。
「ホークスさん。私も……おすすめの本、持ってきたんです」
差し出された本。
ホークスの瞳がわずかに揺れる。
「忙しいかなと思って、私もマーカーを引いてきました。この本の“最後”が、とても好きで」
“最後”
その言葉だけで、胸が痛んだ。
自分の暗号に気づいたように、も同じ手法を返している。
ホークスは恐る恐るページを開く。
震える指でマーカーの“最後の文字”を拾っていく。
拾い上げた短い文が、胸に突き刺さった。
『ありがとう でもひとりにしない ちからになりたい』
読み終えた瞬間、ホークスの呼吸が止まった。
目の前が、少しだけ滲む。
“来るな”の暗号を理解していた。
危険も、立場も、すべてわかっていた。
なのに。
は、それでも“踏み込むほうを選んだ”。
ホークスの顔がゆっくりと上がる。
潤んだ金の瞳が、苦しげに、でもどうしようもなく惹かれるようにを見つめた。
あまりにも重い沈黙が2人の間に落ちる。
ホークスは心の中でひとつ、静かに崩れた。
――守れるかもしれない、じゃない。
“守れないかもしれない”。
その未来が、初めてリアルな恐怖として喉を掴んだ。
荼毘の影へ続く一歩が、2人のすぐ足元まで迫っていた。