第2章 思えば思るる 金城/甘
※“目は口ほどに物を言う”の続きです。
走り去って行く葵の後ろ姿を見送ると、続きの作業をしようと、またパソコンへと向きを正す。
机に置いたサングラスを掛け直そうと手を伸ばすが、はたと先程の行動を思い出し、羞恥心に顔が赤らんだ。
「もう、寝る」と言った葵の顔が頭から離れない。
ふと、伸ばした手に目を落とす。
数分前では葵に触れていた手だ。
(熱かったな…)
それは風邪でもひいているのではないかと思う程に、頬は熟れたリンゴのように赤く染まっていた。
鼻孔をくすぐる甘い香り、
ぷくりとやわらかに開いた唇はキスのせいで濡れて艶めき、
潤んだ瞳には期待と不安が入り交じっていた。
(何をやっているんだオレは…)
額に手を当て、背もたれへと体を預ける。
凭れたソファーが沈み、手の隙間から蛍光灯の光を仰いだ。
(誰が来てもおかしくない通路で、俺は…)
「…失態、だった。」
後悔の念に駆られるが…未だ“一緒にいたい”と一時を恋しく思うのだから、どうしようもない。
溜め息を付き、体制を直すとパソコンの横に置いてあるポカリを手に取る。
煮えた頭を冷やすには丁度良いだろうと、一気に飲み干しサングラスを掛けた。
今度こそ作業に戻ろうと、パソコンのキーを触り出すが、程なくして携帯が震えだし、またもや手を止める。
脳裏りに葵の顔が過ぎり、すかさず画面を開いた。
が、表示された名は一年マネージャーのもので、やや落胆した自分に“これはもう、ある種の依存だな”などと自分に呆れながら通話ボタンを押した。