第1章 目は口ほどに物を言う 金城/甘
休憩所を兼ねた通路には、外がよく見える大きな窓とソファーがある。
そこにポツンと座って、ノートパソコンと対面する金城君の後ろ姿を見つけると、私は迷うこと無く隣へと座った。
『お疲れ様。』
持っていたポカリの缶を金城君へと差し出すと、彼はパソコンを打っていた手を止め「ありがとう」と笑みを浮かべて受け取った。
『…それ、記録の確認?データの整理なら私がやってあげよっか?』
未だジャージ姿の金城君を見て『その間にお風呂に入っておいでよ。』と気遣うが、「もう殆どできているから大丈夫だ。」と断ると、早速ポカリの缶を開けて口にした。
コクリと喉を動かす姿を横目に、相変わらず良い声だなぁ、なんて惚けていると、金城君は缶を机に置いて、またキーボードを打ち出した。
(残業してるサラリーマンのお父さんみたい。これで缶のラベルが珈琲とか酒なら、尚のことなんだけどな。)
言ったら、きっと拗ねて…“俺は父親になった覚えはない”なんて言ったきり口を利いてもらえなくなるだろうから、絶対言わないけど。
カタカタと慣れた手つきでタイプする大きな手。それに自ずと視線が誘導され、パソコンの画面に目をやればルーキー達のタイムや回周が目に入る。
『1年君達頑張ってるね。特に小野田君、思ってたよりいいペースなんじゃない?』
「あぁ、そうだな。」
一見、素っ気ない返事だったが、温かみのある声に私は口元を緩める。
「?、何だ?」
画面を見ながらニヤついた私に気付いた金城君はサングラスの奥で目を丸くさせた。
『いやー、… 嬉しいなぁ、って。』
金城君は無自覚っぽいけど、一年君達が入部してきてから楽しそうだ。
表面上では冷静だけど…常に滾ってる?って感じ。
『──私ね、小野田君には期待してるんだ。天然で気が弱くて、頼りないタイプだけどさ、真っ直ぐで素直。懸命さがすごく伝わるから、この合宿で生き残ってて欲しいって思ってる。』