第3章 ふたり、それぞれの午後
近づいてきたは、
バッグの紐を片手で持ち直しながら、首を傾げた。
「ランダル、こんなとこで何してたの?」
その声には、
責める色も、不審がる気配もなかった。
ただ、
純粋な疑問と、ちょっとした親しみだけが込められていた。
ランダルは喉を鳴らした。
言葉を選ぶ余裕なんてなかった。
「……さんぽ、してただけ」
ひどくぎこちない声だった。
それでも、はにこにこと笑ったままだった。
「そっか、いいね、散歩」
そう言って、バッグを軽く揺らした。
風がまた吹いて、彼女の髪をやさしくなでる。
ランダルは、ただ立ち尽くしていた。
胸の奥で、何かがばくばくと音を立てていた。
はそんなランダルを見上げて、
ほんの少しだけ悪戯っぽく笑った。
「じゃあさ、よかったら――一緒に帰ろ?」
その言葉は、
当たり前みたいに軽やかだった。
でも、ランダルにとっては、
どんな魔法よりも重たく響いた。
彼は、
それにどう答えたらいいのか、
ほんとうに、わからなかった。