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世渡りの旅人 【忍たま乱太郎】

第3章 第一章幕 天女編


雑渡昆奈門に連れられ、薄暗い城の広間に通された。広々とした空間に揺らめく灯火が影を刻む。目の前には、床几にどっしりと腰を下ろした男がいる。その顔にはいつもの不敵な笑みが浮かんでいたが、眼差しは冷ややかで、どこか品定めするような光を宿していた。

「ほう……」

黄昏甚兵衛は顎に手を添え、ゆっくりと身を乗り出す。その動作すら計算されているかのように優雅で、そこにいるだけで圧倒的な威圧感を漂わせていた。しかし……蓮は、その視線を真正面から受けても表情を変えない。長い前髪が顔を覆い、その素顔はほとんど見えないものの、前髪の隙間から覗く瞳はまっすぐと黄昏甚兵衛を捉えていた。その視線には、畏怖も怯えも感じられない。ただ、静謐な沈黙だけが広間を支配する。誰も口を開かず、空気が張り詰めていく。しかし、その沈黙を破ったのは、雑渡昆奈門だった。

「殿。この娘を拾って参りました。もちろん面倒は私が見ますよ」

それは説明というよりも、ただの報告のようだった。雑渡昆奈門は口元を緩め、気楽そうに言い放つ。しかし、その言葉には微塵の迷いもない。黄昏甚兵衛は、ふっと鼻で笑った。

「また得体の知れぬものを拾ってきおったな」
「得体の知れぬとは失礼ですね。蓮ちゃんはなかなか面白い子ですよ?」
「……ほう」

黄昏甚兵衛の眼光がさらに鋭くなる。興味深げに目を細め、蓮を観察するように見つめた。

「お主、名は?」

蓮は静かに懐からメモ用紙を取り出し、ペンを走らせる。さらさら、と静かな音が広間に響いた。やがて、一枚の紙を差し出す。

『蓮』

黄昏甚兵衛は、その文字をじっと見つめ、再び口元を歪めた。

「ふむ。口がきけんのか?」

蓮は再びペンを取り、迷いなく次の言葉を綴る。

『話せば、厄介なことになる』

黄昏甚兵衛はそれを見て、低く笑った。

「ほう……」

こうして蓮は、黄昏甚兵衛に気に入られ、タソガレドキ城に身を置くことになった。

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