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世渡りの旅人 【忍たま乱太郎】

第3章 第一章幕 天女編


学園長の部屋を静かに後にすると、蓮は木造の古びた廊下をひとり静かに歩き出した。午後の陽射しは優しく、薄く差し込んだ日光が木目の床を柔らかな黄金色に染め上げている。歩くたびに、微かな軋みが足元から伝わり、そこには古い学園特有の温かな温もりがあった。廊下の隙間から漂う、わずかな春の気配がどこか懐かしい切なさを蓮の心に呼び覚ました。小松田秀作に笹田真波の部屋の在り処を聞いた蓮は、その言葉を胸に抱きながら宿舎の方角へゆっくりと足を進めていた。遠く学園の庭の方から、忍たまたちの賑やかな声が風に乗って微かに聞こえてくる。笑い声、無邪気に駆け回る足音、そして風に吹かれて舞う落ち葉のさざめきが、澄み切った青空の下で美しく交じり合っていた。蓮はふと立ち止まり、視線を遠く遥かな空へ向ける。果てしなく広がるその青空には、一片の雲すら存在していなかった。そのどこまでも続く青の彼方に、タソガレドキ城があるのだろうか……そう考えると、胸の奥で静かな痛みが蘇るのを感じる。彼女は、その切ない感情を抑え込もうとして目を伏せた。その時、蓮の背後に微かな気配があった。彼女はゆっくりと振り返った。そこには、険しい表情をした忍術学園六年生の六人が、蓮の行く手を阻むように並んで立っていた。食満留三郎、立花仙蔵、七松小平太、潮江文次郎、中在家長次、善法寺伊作……彼らの瞳は深い感情を湛え、複雑な思いを隠すことなく蓮に向けられている。蓮はゆっくりと懐からメモ帳を取り出し、静かな筆致で言葉を記した。

『大川さんの部屋から感じてた気配は、やっぱり君たちだったんだ……』

筆談に示されたその静かな口調に、六人の表情が微妙に歪んだ。彼らの内心に渦巻く感情は、決して軽いものではなかった。

「……私達は、あなたが自分を犠牲にするために、あの話をしたわけじゃない」

立花仙蔵の声は静かで、けれども苦渋に満ちていた。
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