第3章 恋人
そして経つこと、数十分。
着いた場所は…
「これは…葬儀屋?」
そう、葬儀屋であった。
暗くて映えない店構えと、漂う怪しい空気。アンダーテイカーにピッタリの店だ。
「そうさ、ここは小生が営んでいるお店なんだよ…ヒッヒッヒッ…」
アンダーテイカーはリリスを店の中に入るように促し、2人は店に足を踏み入れた。
「さあさあ、小生のお店へようこそ、ヒッヒッ」
リリスは思わず「うわぁ」と声が出た。目の前に広がったのはなんとも陰気臭い光景だったからだ。
たくさんの棺が至る所に置かれ、頭蓋骨の模型が床に転がっていふる。職業柄、仕方がないことなのかもしれないが、あまりにも陰気臭すぎる。
「どうだい、素敵だお店だろう?」
「ま、まあ、そうだね...ずっといるのはちょっと嫌かもだけど。」
「ヒッヒ、それは残念だねえ。リリスには今日ここに泊まってもらうのに…」
「嘘だろ?」
なぜ勝手に話を進めている。自分は許可などしていないのに。
「嘘じゃないさ。さあ、こっちにおいで。部屋に案内するよ」
リリスはアンダーテイカーに文句を垂れる間もなく、手を引かれて行った。
「ここが寝室だよ。」
案内されたのはなんとも殺風景な部屋であった。ベッドと机と椅子。必要最低限のものしか置かれてない。
「へえ…いつもここで寝ているの?」
「ああ、そうさ。リリスはまだ眠くないかい?」
「今日は色々とあって疲れたからなぁ…ちょっと眠いかも」
「そうかい、それなら…」
「うわっ」
アンダーテイカーはリリスを横抱きにして、ベッドの上に優しく放る。
「ちょっと、別に今寝たい訳じゃないんだけど…」
アンダーテイカーは「ヒッヒ」と笑い、リリスに覆い被さるように手をつく。そして、翠色の瞳を覗かせた。
美しく鋭いその瞳は、今までとは違うように見えた。獲物を捉えるような、欲望に打ち負けそうな獣のような…。それでいて、瞳の奥に隠された暖かさは消えていない。
少し背筋がヒヤリとした。
アンダーテイカーはリリスの耳元でそっとこう囁く。
「誰も寝かしてあげるだなんて…一言も言ってないんだけどなあ?」
嫌な予感がする。今すぐアンダーテイカーから離れないと何かが起こる気がする。