第1章 目覚め
それから約2ヶ月後
朝の冷たい空気が肌を刺す。冬が近づいているのを感じながら、私は拳を握りしめた。
「あと300回」
カイトの鋭い声が響く。
「……くっ!」
腕立て伏せを続ける腕が悲鳴を上げる。2ヶ月前なら到底できなかった数。でも今は、体が限界でも、気持ちが折れることはない。
「299……300!」
最後の一回を終えて、私はその場に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……!」
肩で息をしながら、地面に広がる朝露の冷たさを感じる。だが、休む暇もなかった。
「休むな、次は走り込みだ。」
「うぅ……」
思わず情けない声が出るが、膝をつきながら立ち上がり、息を整える。
そんな私の横では、パイロが静かに立っていた。
彼の訓練は、私とは違う。
「パイロ、準備はいいか?」
「うん。」
パイロは目隠しをして、木の上に座る。彼の訓練は、視覚を使わずに周囲を把握する感覚を研ぎ澄ますものだった。
「今から石を投げる。掴んでみろ。」
カイトの言葉に、パイロは小さく頷く。
ヒュンッ——
小石をカイトが10個ほど投げる。
パイロはじっと耳を澄ませ——すっと手を伸ばした。
「……!」
指先が、飛んできた小石を全て確実に掴んでいた。
「やった……!」
私は思わず歓声を上げる。
カイトも感心したように腕を組み、「上出来だな」と呟く。
「すごい、すごいよパイロ!」
私が駆け寄ると、パイロは嬉しそうに微笑んだ。
「風の微妙な流れが分かるようになってきたんだ。」
「すごいね……! 見えてるみたい!」
私が感心していると、カイトがニヤリと笑う。
「ヒツキ、お前も努力しなきゃな。」
「えっ!?」
「夜までこれを持って走れ。」
「そ、そんな……!!」
砂の入ったリュックを渡され、泣きそうになりながらも、私は駆け出した。