第6章 即ちそれ、“強豪”なる者たち
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
いま、こうして再び向き合った私が。
何かもう一つ、気づかなければならないことがあるとしたら。
それはきっと一つだけ。
己の過去に、いったい何があったのかを、私に包み隠さず教えるかのように。
この人にも…瞳を濡らした跡があるということを。
いくら自分と同年代とはいえ、まだ幼い女子中学生の泣いた痕跡を目の当たりにして何も感じない程、私はまだ荒んでいない。
しかし、今の私には、
『いいえ、先輩も…お疲れっした…』
と、そう声を振り絞るのだけでも、割と精一杯だったということは信じてもらいたい。
もし、もう一つの視点から、己を俯瞰で見ることが出来たのなら。
他の誰かに言われるよりもずっと早く、「もっと気の利いたことを言ってやれよ」と自分自身を責めるだろう。
でもこれが、現状私に出来る、最大限の気づかいだったんだ。
しかし、目の前にいるこの人は、私の数倍も大人だったようだ。
私のよそよそしい態度から、私が気まづさを感じているのを敏感にも感じとったからなのか、
?「そんなに畏まらないで?」
と、年上の余裕が垣間見えるフォローを入れてくれたのだ。
その後、「でも、さっきまで戦っていた相手にコートの外で会えば…やっぱ無理もないか?」と付け加えてくれたのは。
十中八九、私に対する優しさの表れだったのだろう。
その時どこか、困ったように微笑んだその顔は。
過去の涙の影を、精一杯取り払っているかのようで、一周回って逆に涙ぐましかった。
この人は恐らく、私と同じで…
困ったように笑う、私がそうさせてしまったその顔じゃなくて。
その表情の裏にある、闘志にギラギラと輝く瞳をした、選手の時の顔を思い浮かべて。
準決のシーンが、私の中にフラッシュバックしてくる。
全て思い出せるんだ。
そこにある全てを照らし、影一つ生み出さないライト。
その明るさ倍増させるような、顔が映り込むほどに磨き上げられたコート。
未知数の視線。
うっかり「自分のことではないか」と思ってしまうほどの観客の声援の中。
その中で。
コートの中で、この人は…
8番を背負っていたんだ。