第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
思い起こすまでもなく、さっきもやったって、これ。
「天~どうしたのよ〜?!
そんな可愛いこと思っちゃって〜!」
『懐くな!いってぇ!!』
百歩譲るから、一試合に1回だけにしてくれ。
と、依然詩織の腕の中で考えたものの。
今回のは、試合終了直後のそれとは、少しだけ違ったんだ。
というより正確には、“いつもの”やつと、何かが違った。
詩織の抱き着き癖には慣れっこだ。
これまで…文字通り、一緒にいた時間だけ。
何かにつけて抱き着いてくる詩織を、しょうがないと思いながら受け入れていた。
中1までは…
しかし、“受け入れる”とか、そう簡単に言えることではなくなってしまうほどの、変化が訪れてしまった。
変化の名前は、言わずと知れた“第2成長期”。
愛華のコンプレックス要因の半分程度は、詩織(こいつ)にあるんじゃないかと思ったことがある。
…が、双方に殺される可能性があるから、言ったことはまだない。
よりによって詩織は、メンツの誰よりもタッパも体重も秀でている。
だから、変わることなくそれを受け続けてきた私は、ここ1年間である種の“特殊訓練を受けたエキスパート”のような存在になったと自負している。
そんな特殊な訓練…もとい詩織の相手をしていると分かるのだが。
詩織の抱き着き癖は、あくまでも1つの定理に基づいていることに気がつく。
「詩織は抱き着くときに、相当な力で抱きしめてくる。しかし、それに痛みは決して伴わない」、と言う定理に。
事実、詩織の抱擁で“苦しい”と思ったことはある。
しかし、“痛い”と思ったことは、不思議と一度もないんだ。
今回は、そこが違った。
痛かったんだ。