第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
『ワクワク…とか。
そんなんじゃねぇーんだけど』
「またまた〜嘘つくにしては
“昂った”が流暢だったぞ~??」
そう言って紗恵は、私の首に回した腕にさらに力を込め、自身の方に私を引き寄せた。
急に加わったその力に、肩が下がるのと同時に私は心なしか猫背になる。
それだけで、今までは紗恵が私の直立時の肩の位置に合わせていたことが分かり。
今度は私が、紗恵の肩の位置に無理やり合わせられたのだと気づいた。
ただでさえ近距離であったのにも関わらず。
さらに迫ってくる紗恵の顔に、私が危機感を持たないわけもなく。
一方、早々に離れようとする私の気など、知りもしないという様子で、紗恵は更に捲し立てた。
「あっれ~?おかしいなあっれぇ~??」
見ての通り、この調子だ。
とにかくしつこい、何が何でも。
止まることを知らない紗恵の声に耳が痛い。
いや…“言葉に”とかじゃなくて、そのままの意味で。
「んで?なんだっけ?
“ワクワクとかそんなんじゃない”…だっけ??」
『うっさいんだよ耳ぶっ壊れんだろ!』
だから私も、紗恵の声に負けないくらい、これでもかと腹に力を込めた。