第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
直前まで、目を合わせて笑い合っていたはずの愛華の顔が。
悲鳴にも似た声をあげるのと同時に、それに見合った歪んだ表情に変わった。
そして、さまざまな感情と共に握らせてもらった左手を、自身の方に思いっきり引っ張っていた。
その勢いで、私の左手からスポッ!っと抜けてしまった。
愛華は確実に、「痛い」と言っていた。
声の大きさに驚いたために、その意味を汲み取れなさそうになったが。
多少の違いはあろうとも、私の頭はすぐにそれを「痛い」だと判別した。
それを知った上での、さっきの悲鳴…
それが、ただの恐怖とは違って、自身を守るための“条件反射”のようなものだとしたら。
熱いやかんを触った時と同じだ。
重大な怪我や事故を防ぐための、反射的な回避だった。
あの、手を引く俊敏さも、それで納得がいく。
そして、あの悲鳴と歪んだ顔…
どう考えても、“苦痛”という言葉しか当てはまらない。
そして、その“痛み”にあたる物を、愛華に与えてしまったのは…
疑うこともなく、私自身だった。
左手を見ずとも分かる。
私の爪は伸びていない。
左手も、言わずもがな右手だって。
それに、私の手がやかん以上に熱いわけがない。
だとしたら、なぜ愛華は“痛み”に襲われ。
私の左手から、脊髄反射で逃げてしまったのか…
総合から、私が原因を突き止めるよりも少し早く。
その答えを知るであろう愛華が、悲鳴を上げたときの声色のまま、私に向かって言葉を投げて来た。
その内容…そして答えは、
「おい馬鹿!馬鹿力!!手加減しろって!!
“手加減しろ”っていっつも言ってんだろ?!!」
…と、言うことだった。
やってしまった。
強く握りすぎた。