第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
見る人によっては、“異様”と取れる光景は、まだ終わっていなかったようだ。
「おい馬鹿!馬鹿力!!手加減しろって!!
“手加減しろ”っていっつも言ってんだろ?!!」
『わりぃ!ガチ悪かったって!!』
数秒前まで、私の手の中にあったはずの左手を、自分の右手で柔らかく撫でる愛華の姿を見ていたら。
私は、平謝りする以外になかった。
選手同士がただ握手しただけに見えたであろう、その光景。
感動的で、微笑ましくもあるその一瞬は、大多数の人が思うほど綺麗なものなんかじゃなくて。
現に私の力加減のミスで、試合会場で再び“異様”行動を披露する羽目になってしまった。
一つ間違えれば、同じコートで戦うはずの仲間を傷つけかねない。
そんな、あってはならない“異様”な光景を。
しかし、人々の“異様”の影には、いつだって私たちの“日常”が隠れている。
懐いた相手にすぐ抱き着きたがる奴も。
素直すぎるイライラ製造機も。
トラブルメーカーの脳筋ストイックも。
取り柄が腕っ節の馬鹿力も。
身長が地雷の花キューピットも。
周囲に“異様”と思われれば思われるほど。
“日常”が濃く、強く。
私たちを、私たちたらしめるんだ。
私が口早に謝罪をのべる傍ら。
愛華は、相変わらず左手を摩りながら「ったく…」と小さく悪態をついている。
「あぁ〜痛…
相手が他の3人じゃなくて、私でよかったな」
そう私に向かって呟いた、愛華のその反応こそが。
私たちのこれまでと、“日常”を証明してくれているようだった。
褒められたもんではないと、分かってはいる。
けれど、これまでに私たちが経験して来たことは、褒められたり許されたりしないようなことだって沢山あった。
それらがあってこそ。
それが例え、褒められた“日常”じゃないとしても。
間違いなく私たちが、全員で選んできたことなんだ。