第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
『愛華?』
私が、少々悪戯っぽく放った言葉に対して、愛華からのレスポンスはない。
この話を始めたときから、当たり前なんだけど愛華はずっと私に背を向けている。
だから、愛華の表情は分からない。
それでも、私の言葉の前後で、愛華の心情が変わってしまったことは、その背中からでも十分感じ取れた。
「もしかして、私いらんこと言った?」と思い、再度声をかけようとした。
それと同じタイミングで。
「しあ……い………き…」
『あ?』
愛華も、何かを言おうとしているってことには気づいた。
ちゃんと聞き取れなかったけど。
私が聞き取れなかったのを察したからか。
それともさっき口にした言葉が、そもそも本調子ではなかったからか。
理由は分からないけど、愛華は再び口を開いた。
「試合開始の時…」
今度はしっかり聞こえた。
一言一句、ハッキリと。
けれど、愛華が言いたいのは、何もこれだけではないのだろう。
だから私は、今度はちゃんと1回で聞き取れるように、顔の見えない愛華の口から出る言葉を、聞き逃さないよう耳をすませた。
それと同時に…
このときの私は、ある“ひとつの可能性”が頭を過っていた。
確信はないけれど、心当たりがある。
そんな考えが…
私には覚えがあった。
愛華(こいつ)のこの反応…
もしかしたら…
…と、考えを深めている間。
愛華の口から、正解とも通告とも取れる言葉が出てきた。
「“今日の対戦校。
1人小学生交じってない?”って言ってたの…
忘れねぇーからな…!!」
『悪りぃ諸々訂正させてくれ』
口早にそう言って、私は愛華の背中に向かって両掌を合わせて、謝罪のポーズをとった。
・・・
もしか、したわ…