第5章 栄光の目前 〜決勝トーナメント準決勝〜
●藤堂 天● 〜東京体育館〜
ついにボールが詩織の手から離れた。
誰がどう見ても、それが“無防備な状態”なのは明らかだ。
?「そっち行ったぞ!!」
そりゃ、相手選手は必死になって取りに行くだろう。
特に、今私の目の前にいる3人は。
私(たった1人)の掌で踊らされてるも同然だったんだ。
そんな時、私とは真逆の方向にボールが飛んでいったんだ。
これをチャンスと思わないわけがない。
だからこそ、一斉に視線を奪われていた。
宙を飛ぶたった1つのボールが、3人の選手の注意を全て持って行ってしまった。
まるで…
他のものなんか、もう何も見えていないみたいに。
?「焦るな!ここで確実にボール取」
だから気づけたんだと思う。
その時になって、ようやく。
?「あ…!!」
ボールを追う視線に素直になるまま、私に背を向けたその3つの後ろ姿。
顔は見えないが、驚いているのは背中から十分感じ取れた。
相手選手たちの眼前に現れた、“気づき”に相当するもののせいで。
仲間に対してかけていたであろう言葉を、言い切ることは叶わなかった。
振り返った彼女たちの眼に映ったのは、なんだったのか。
未だに宙を飛ぶ無防備なボール?
もしくはコートに転がったそれ?
他の仲間がボールの主導権を獲得した姿?
それか…
「っしゃ来い!!」
ノーマーク状態で、スリーポイントラインの外側に立つ相手選手?
?「なん…で?!」
答え合わせの結果は、1番最後が当たりだったらしい。
私も早くに気づいていた。
私から視線を外して、ボールを追いかけるその3つの背中が、私に向けられた時に。
…もっと言えば、それよりもずっと前から。
驚くのも無理はない。
フリースローの際、スリーポイントラインの外側に待機するのは、オフェンス、ディフェンス共に2人ずつなんだ。
だから、スリーポイントラインの外側で、選手がノーマーク状態になる、なんてあり得ない。
ある1つの作戦を決行しない限り…
この状況で、ノーマーク選手を生み出すことのできる、たった1つの方法。
それは…
「ナイス!そのままスリー!!」
シューターが、オフェンスに参戦することだ。