第1章 それでも君は、【太宰治】
彼女との出会いは、
もう5年以上も前になる。
だのに、
私たちは一度も"触れ合った事"がない。
愛を持って、
欲を持っていながら、
失うことを考えてしまうのだ。
だけどもう、
手一杯だった。
彼女への愛情を、欲を、
自分の身だけでは持て余してしまう。
こんな時、
ポートマフィアにいる時分であったら
良かったのに、と。
仕事で発散させてしまえられる頃であれば
良かったのにと強く思う。
こんな途方もない感情を
今の仕事で発散しようものならば、
同僚から手酷く怒られるのは想像に容易い。
だけどもう、
だからもう、
失ってもいいから、
手元に置いていたい。
離れないように、
逃げられないように、
留めていたいのだ。
彼女からの信頼も信用も慈悲も
すべて、
失っても構わないから、
彼女を手に入れたいのだ。
昨夜会って決心がついた。
彼女を奪ってしまおうと、
そう決めたのだ。
また明日 と、
微笑んでくれた時にはもう、
心は乱れ切っていた。
出来ることならば
生きた彼女とずっと居たいけれど、
もしもの事があったら、
もしも私が誤って彼女の命までも
奪ってしまいそうになったら、
私は彼女と、
宵朝と心中するのだ。
彼女との一方的な待ち合わせ場所は
地下駐車場。
こういう時がいざと言う時なのだろう。
いざと言う時のために、
この建物を買い取って正解だった。
この駐車場は広くて音も響く。
それになにより、
私と宵朝が
初めて出会った場所なのだから。
宵朝は気がついてくれるだろうか。
目隠しを取るのが楽しみで堪らない。
初めて出会った場所だねと、
笑ってくれるだろうか。
あぁ早く。
早く、
会いたい。