第1章 それでも君は、【太宰治】
場所を変えた先は、
先程まで居た地下駐車場の
すぐそばにあるホテル。
宵朝には言っていないが、
最初からこうなる事を予想して
部屋を取っておいたのだ。
宵朝に会う前にチェックインをし、
準備をしておいて正解だったなと思う。
そのせいで焦れてしまった部分もあるが、
万全の状態でいるに越したことはない。
「もしかして宵朝、初めてかい?」
何も発さなくなった事が気にかかり、
エレベーターホールで隣に並んだ
宵朝の横顔を覗く。
もしも宵朝がそうなのだとしたら、
喜びよりも驚きが勝る。
ポートマフィアの幹部ともあろう者が
まさか処女だなんて誰も思わないだろう。
「。。。うるさい」
「まだ何も言っていないよ」
「仕方ないでしょ」
「何も言っていないったら」
明らかに歯切れの悪くなった宵朝は
中々来る気配の無いエレベーターに
八つ当たりの言葉を吐く。
余程恥ずかしいのだろう。
地下駐車場での出来事は
全く違う人格によって行われていたのかと
錯覚するくらいには、
今の宵朝は
なんとも子供っぽく見えた。
「太宰、?行こ。」
此処はホテルだと言うのに、
先刻醜い酷い事をしたと言うのに、
私の外套のみを羽織った宵朝は
私の手を引いてエレベーターへと誘った。
私が17階のボタンを押した後、
扉が閉まるとすぐに困惑が混じった声色を上げる。
「ねぇ、思ったけど。ここ高いでしょ」
恐らく階数の事では無い。
「紳士にそんな野暮なことは聞くものじゃないよ」
「太宰が?"そう"だって言うの?」
「酷いなァ」
もちろんホテル代について話すつもりも無いので、
少し不貞腐れたその視線だけは受け取っておく。
目的の階についてもやはり宵朝は
ホテル内の装飾や調度品を見てはお高いだなんだと
頭を抱えている。
今頭を抱えるべきは
そこでは無いのだけれど。
もしや、
この状況を理解していないのだろうか。
流石の宵朝でも
そんな事は無いなずだけれど
部屋に着いたら先ずは、
これから何をするかを分かってもらわ無ければいけないな。