第1章 戯れ
それは無惨の戯れから始まった。
気に入った女を鬼にする。それ自体はよくあることであった。
しかし鬼にした後も決して自分の手元から離すまいとする程、一人の女に執着したのは初めてだった。
貴重な稀血を分けてやると、女はその白い喉を小さく動かしてそれを飲み込んだ。その時だけ女は従順になった。稀血によって普段は気丈な目が蕩けてゆく様を無惨は特に気に入っていた。
だがそこまで執着しているにも関わらず、その女は数刻おきに無惨の前からこっそりと姿を消すのである。
当初は厠に行っているのかと思っていたが、鬼になった今、その必要など無いと思い直した。
一体何をしているのだと思いながらも、四半刻もせずに自身の側に戻ってくるということもあり、無惨は努めて気にしないように振る舞っていたのだった。