第25章 あの日
カランッ…と音を立てながら私たちは外に出た。
店内との温度差に思わず目を見合わせる。
『暑いね』
「そうだな」
『ねえ、帰りどうしようか?電車でもバスでもいいし、ちょっと遠いけど歩きは…って、さすがに影山くん疲れてるか』
「歩く」
『え、平気?』
「だってお前、まだ帰りたくないんだろ?」
『!』
「だから歩くんでいい」
『……ありがとう』
いつものことながら、飛雄の第六感的それに驚きを感じざるを得なかった。でもそれと同時に「お前のことなら何でもわかる」と言われてるようで、なんだか安心した。
…だって、私でもわからない私自身のことも、飛雄がわかってくれるなら怖いものなんてないと思えたから。
日が長い分、夕暮れと呼べる時間は短い。そんな刹那的にオレンジに染まる商店街を私たちは並んで歩いていた。
──「優しくて、理解してくれて、守ってくれて、美里ちゃんの作ったご飯を美味しいって食べてくれる…そんな人と素敵な恋愛ができるといいね」
ふと、潔子先輩の言葉が頭を過ぎった。
私が恋愛?
なんだか夢のように遠い話みたい。
思うままに、と言われてもこれまで出会った誰かとそうなるなんて全く想像ができなかった。
潔子先輩は、こんな私でも本当に恋愛ができると思ってくれているのだろうか。正直、自分ではちょっと自信がないな。
…だって、飛雄以上に私のことを理解してくれる人なんて、もしかしたら一生現れないかもしれない。そしたら私は恋愛どころか、そんな人が現れるまで人を好きになることすら出来ないじゃないか。
そんなことをグルグルと頭の中で考えていると、少し先のほうから制服姿の高校生カップルが歩いてくるのが見えた。
あれが “恋愛” か、
手を繋いで…幸せそう。
──いいなぁ
『………』
私は、ほぼ無意識にすぐ隣の飛雄の手を眺めていた。