第23章 止まり木
今日も終盤に差し掛かった音駒戦。
何度もリエーフくんのブロックに捕まった日向くんは、次第に苛立ちを隠せなくなっていた。
「…あんなにイライラしてる日向、初めて見たかもな」
『そうですね』
そしてやってきた速攻のチャンス。
飛雄の目は、日向くんの位置以上の何かを読み取っているように見えた。
トッ
『あれ…トス』
「え?」
日向くんは上手く合わなかったトスを辛うじて指の先に当てて、ボールを返した。こちらの得点だ。
「ナイスカバーナイスカバー!」
「日向器用だな」
「オイ!!」
先輩たちの声がけに一切目もくれず、日向くんは飛雄に詰め寄った。
「今、手ェ抜いたな!!?」
音駒サイドはもちろん、ベンチメンバーを含めみんなが日向くんの言葉に驚いていた。
「…手を…抜く?…俺が?バレーで?」
飛雄は日向くんの胸ぐらを掴み睨みつけた。
「…もう1回言ってみろよ…」
「おいコラ!」
「すいませーん!タイムアウトお願いします」
ピーッ
「今のは…落ちてくるトスじゃなかった」
「ハッ…」
「え?そうだった?」
「わかんないよ、動物的勘とかじゃないの?」
「鈴木、影山のトスの瞬間になんか言ってたよな?」
『…練習してるトスと送り出しの指の形が少し違うように見えて。影山くん、トス上げる前から日向くんの様子を伺ってるようだったし』
「マジかよ」
「美里ちゃん、あの一瞬で?」
『少し違く見えただけですよ?』
「………」
飛雄は自分の両手を見つめながらフラフラとベンチに歩いてきた。
「やめんな、影山っ!!!」
その声に、飛雄は再び日向くんに向き合った。
「…………」
そして、もう一度こちらに向いた時には、飛雄の顔から迷いが一切消えていた。
「ねえ美里ちゃん?…影山くん」
『うん、なんか変わったね』