第22章 初めての東京遠征
影山 side
美里が及川さんの冗談に頷いた時、胸の奥が冷えるような感覚がした。そして、美里があんなにも簡単に自分を差し出そうとしたことに対する違和感と恐怖が一気に押し寄せた。
それらは段々焦りや不安、そして怒りとなって渦巻いて俺の心をぐちゃぐちゃに掻き乱した。
何やってんだよお前、ふざけんじゃねえ。あと少しであいつに向かってそう怒鳴り散らしてしまうところだった。
未遂で済んだとはいえ俺のために無防備にその身を犠牲にする姿を目の当たりにして、いつか本当に…もっと大切なものでさえも誰かに明け渡してしまうのではないかと怖くてたまらなくなった。
昨日、腹のあたりに巻きついたあいつの温もり。その頼りない力強さと切なそうな表情を思い出して、余計に苦しくなる。
…お前は俺が守ってやりたいのに、その俺のせいでお前が傷つくなんてそんなバカな話あってたまるか。
「それにしても俺、あのキス待ち顔を前によく我慢したと思わない?飛雄、俺に感謝しなよ」
「感謝とか意味わかんねえ…普通に腹立ちましたけど」
「なんでよ!」
「めっちゃ見てたじゃないスか」
「見るに決まってんじゃん。だってあんなに可愛い子が目ぇ瞑って俺のキス待ってんだよ!?やばくない?」
「今ので余計腹立ちました」
「ちょっと!俺だって結構マジでピッピちゃんのこと好きなんだかんね!」
「んなこと別に聞いてないです」
「クッソ〜!しちゃえばよかった!…でも飛雄」
及川さんは急に真面目な顔をして階段の下の方にいる美里を見た。
「本当に気をつけなよ」
「………」
「なんかあの子、危うい気がする」
その言葉の意味は、多分俺の感じたことと同じ意味だろう。