第22章 初めての東京遠征

影山 side


「あっ……え、ちょっ飛雄」

「……」


自分で言い出したくせに及川さんはひどい焦りようだった。そしてそれは俺自身もだ。変な汗が手に滲み、背中を伝う。


こいつ、今なんて言った？俺が話を聞いてもらうために及川さんとキスするって…そう言ったのか？



『及川さん、私本当に初めてで…どうしてたらいいですか？目、瞑ってたらいいですか？』

「えっ…まだ、初めてなの？」


『はい』


目の前に立って顔を見上げる美里、及川さんはそれを見て小さく舌なめずりした。


「そうだね…じゃあまず、目瞑ろうか？」

『…っ…はい』



「っ！」

こいつ、マジでバカなんじゃねえか…！？キュッと唇を結んで目を瞑る美里に耐えきれなくなって俺が近付くと、及川さんはそれを手のひらで制した。


「あ！？」



──大丈夫だから


そうパクパクと口を動かした及川さんは、数秒の間目を瞑った美里を見つめた。そして、そのおでこをピンッと指で弾いた。



『いﾞっ！？』



おでこを押さえた美里はその場に座り込む。


『な、なんで…！？』



「あのさ、ピッピちゃん」



『？』


「だめじゃんか、男の前で簡単に目なんか瞑っちゃ」


『でも…』

「でもじゃないの！相手が俺だったから良かったけど、他のヤツだったら絶対ちゅうしてたよ！？」


『…影山くんの話、聞いて欲しかったから』



「あのさぁ〜……」



大きなため息をついた及川さんは髪をかきあげながら俺を見た。



「…仕方ないから聞いてやるよ、ピッピちゃんに免じて」



『本当ですか…！？ありがとうございます、よかったね影山くん！』




振り返って笑う美里を見て、心がどうしようもなくザワついた。



お前は今、その唇を及川さんに差し出したのか。
奪われるつもりで、それでも構わないと？



「……っ」


お前を犠牲に得たものなんか、俺は欲しくもなんともねえのに。


グッと握った拳に力を込めると、手のひらに爪が食い込むのがわかった。



「ちょっと猛、このお姉ちゃんと向こうで話してて」

「え？」

「いいから」

「わかった、いこお姉ちゃん」

『あ…うん！』



美里は及川さんの甥っ子と階段を降りていった。