第1章 キミが泣いたあの日
「今日、試合だった」
その一言に心臓がドクンと強く鳴る。
『…決勝だっけ?朝お母さんが言ってた』
「負けた」
『そ、そっか…お疲れさま』
すると彼は徐に自分の両手を見つめた。
「………」
『影山くん?』
「ん」
何してるの?とこちらが聞くより先に彼はその先を口にした。
「…俺は試合で勝つために、練習してきた」
『うん』
「試合で勝って、1試合でも多くバレーやるために努力してきた」
『…うん』
「鈴木さん、一与さんの話覚えてるか?」
『強くなればバレーがいっぱいできるって?』
「……ああ」
そう言って頷いた彼はそのまま俯いた。
「俺はその言葉を信じてきた。試合を、バレーを続けるために、強くなりたかった。でも実際は、俺が思い通りのトスを上げられるようになればなるだけ、思い通りのバレーが出来なくなった」
『……』
「…今日だって、」
何かを言いかけて、ギュッと唇を噛み締める彼の頭にはきっとあの瞬間が浮かんでいたに違いない。
いつになく饒舌な彼。早口でもなく、感情的なわけでもなく、ただ淡々と言葉を発するものだから、何を考えているのか読めなくて相槌を打つことも出来ず、濃いオレンジが街を飲み込んでいくのを見ながら聞いていた。
「…俺はどうすれば良かったのか、俺の何が間違ってたのか一与さんに聞きたかった。その為にここにきた。どうしても聞きたかった、俺にバレーを教えてくれたあの人本人に」
“だけど”
そう口にした彼は、突然黙り込んだ。
不安になって横を見ると、顔色ひとつ変わらない彼の大きな目からは涙がボロボロと溢れていた。