第19章 能ある烏は翼を隠す
月島 side
さっきの鈴木のスパイクに度肝を抜かれたのは僕らや外野だけではなく、向こうのメンバーや女バレの人たちも同じだったようだ。例の女子も、つい10分前までは鈴木をただの初心者だと思って喧嘩を売ったのだろう。それが今や自分たちの首を絞めることになってしまった。
ウケる…見るからに焦ってるじゃん。
ほんと、ケッサク。隣の菅原さんが引くくらいに悪い顔をしてニヤついている。そしてきっと僕も今こんな顔をしているはずだ。
「…鈴木、ホント最高」
「……同感」
ボールを持って歩き出した鈴木を見て、向こうのバレー部2人はメンバーのビブスを掴んで後ろに引っ張った。たしかに、ジャンプサーブなら下がってレシーブをするのが得策だ。だけど、バレー部が2人もいて、初心者もレシーブに回すつもりなのか。自分たちに任せろくらいのことを言ってやればいいのに。
エンドラインから更に8歩ほど下がった鈴木。
すると、胸元でボールを持った鈴木の目線がチラッとどこかに動いた。小さく笑ったその顔に僕は見覚えがあった。
…入学式。
新入生代表の挨拶でステージに向かう途中、誰かにふいに見せた笑顔。あの日も今日も誰を見ているのかはわからないけれど、鈴木にこんな顔を向けられるのはどんな人だろうと気になってしまう。そしてほんの少しだけ、その人が羨ましいとも思った。
でも、ひとたび目を瞑った鈴木が再び瞼を開けた時、その瞳はまるで別人かのような凄まじい集中力を孕んでいた。