第16章 IH予選 初日
「………」
唯一椅子に座る飛雄は、合わせた手を顔に寄せ、目を瞑りながら精神統一を図っていた。この姿はこれまでにも何度も見たことがあった。セッターは人よりも神経を尖らせていなくてはならないポジション、この時間はきっと大切な時間なのだろう。
絶対に勝ち上がってこい、途中で負けるんじゃないよ
そんな及川さんの言葉にも、きっと飛雄なら “当たり前だ” というはずだ。
…邪魔しないほうがいいよな。
そう思って背を向けた瞬間、小さな声で「美里」と聞こえた。
『……』
その声に振り返るが、飛雄に変わった様子はない。
気のせい、か
『じゃあ、私そろそろ上にいきます』
「えっ、影山は?」
『…影山くんに私の言葉は必要なさそうです』
「くぅ!勿体ないヤツめ!」
「鈴木」
『はい』
「次も勝つぞ」
『はい!』
私はひとり体育館を出て、スタンド席へと向かった。