第16章 IH予選 初日
入口を通ると端にいる他校生がこちらを見てヒソヒソと小声で話していた。
「なんか黒い…」
「高校生に見えないヤツ混じってねえ?」
「あ…!あれはまさか!烏野の…アズマネ!」
それを聞いた隣の潔子先輩が小さく吹き出した。
『すごいですね、旭先輩恐れられてますね…!』
「そうなんだけどね、恐れられてるの意味が違うの」
『え?』
「不良とか実は成人してるとか…そういうアレ。毎回会場でヒソヒソ話されてる」
『あ、旭先輩がですか?あんなに穏やかな方なのに…!』
「東峰くんは見た目がすごくワイルドですからね」
「見た目だけなんですけどね」
オロオロと周りを気にする旭先輩を見て潔子先輩がもう一度笑った。
すると、突然私たちの周りを田中先輩と西谷先輩が囲ってシャーッと威嚇し始めた。
『な、なんですか?』
「わーっ!ダメ!ダメです!鈴木さん、こっちにいて!」
すると今度は、そう叫んだ日向くんが控えめに私のジャージを摘んで、他の1年生のところに押し込んだ。
『ちょ、日向くん!?』
「鈴木さんが盗まれる…!」
『盗まれ…?』
「あぶなかったけど、もう大丈夫!ここなら目つきの悪い影山と性格の悪い月島がいるから!」
「あ゛!?」
「なに?」
「ヒッ」
「まあいいや…王様、そのまま周り見ておきなよ」
「あ?…周り?」
「そうそう、その調子」
「オイ、アレってアレだろ…天才セッターって噂の…」
「北川第一の“コート上の王様”…!?」
その声に飛雄が目を向けると、その人は妙な奇声を発してこの世の終わりでも見たかのような顔をして固まった。
「ぶふっ…王様、超有名人じゃん」
「黙れ」
そのまま私たちは体育館の入口までやってきた。
「体育館でけえっ…!そして、エアーサロンパスのにおいっ…!」
「何言ってんだお前」
「このニオイって大会って感じすんだよ」
「わかる!」
「美里ちゃん、荷物置く場所を見に行こう」
『はい、わかりました!』
私と潔子先輩はぐるりと館内を回った。
体育館のB入口の前に良さげな場所を見つけたので、荷物を置いて皆を待つことにした。