第7章 再会
及川 side
最初は国見ちゃんに先輩の余裕とやらを見せてやろうと思って、彼女の腕を引いた。
この子は万人受けする顔立ちをしていて、しかも社交的な性格の持ち主だ。さぞかしこれまでに不特定多数の異性から好意を向けられてきたのだろう。自分で言うのもなんだけど俺もそのタイプで、こういうタイプは相手には困らないし、まぁとにかく異性慣れしていることが多い。
国見ちゃんにしていた恋愛の話を聞いて、ああこの子はそういう系かと思った。そういう系というのは、遊び慣れてるくせに恋愛なんてしたことがないと嘯いてパクッといっちゃうような言わば小悪魔系。
しかし、いざ柱に追いやって身体を近づけてみたら、彼女の反応にはまるで経験値を感じられなかった。彼氏がいたことがない、恋愛を知らない、これに嘘はないのだろう。そんで、あれよあれよという間にその反応の虜になったのは俺の方。真っ赤にした顔が可愛くて、潤んだ目が扇情的で、ふっくらした小さな唇は俺を誘っているかのようで…。
本当は逃げたいけど逃げられない、そんな彼女の心の内が見えていたのにあえて俺は止めなかった。
だけど、もう少しで唇が触れ合う。
そんな時に彼女は恐らく無意識に小さく口を開いた。
──『……っ、とびお』
…飛雄?
そう思ったのも束の間、俺は肩を勢いよく押され後ろによろけた。パッと顔を上げると、そこにいたのはただでさえ悪い目付きを更に鋭くさせた飛雄で、理解の追いつかない俺は「美里ちゃんってスタンド使いだったのか」なんて思った。
俺たちに向ける目はひどく攻撃的なのに、彼女へはその牙がない。飛雄が女の子とまともに会話しているところなんて見たことがないし、ましてや、手を差し伸べるなんて……。
北一の試合に美里ちゃんが飛雄を観にきていることは気づいたけど、飛雄側もまた彼女に対して何かありそうだ。
俺は走り去る彼女の背中を目で追った。
「…飛雄、お前はいつから王様じゃなくて王子様になったの?」