第6章 ナンパ
-もうホームに着くぞ-
休日の10時すぎ。
主要駅の広いコンコースで携帯から改札の方へ目線をやり、出張帰りの彼を待つ。
柱に設置されたサイネージが提案する旅先をぼんやりと見ていると、横から声をかけられる。
「おんやぁ?こんなに素敵なレディが一人かい?」
真横からの声に目を向けると、柱に手をついて見下ろすサングラスの男。
「行き先に迷ってるなら、一緒にお茶でも?」
丸いサングラスに映る自分ににっこり笑いかける。
「ごめんなさい、人を待ってるの」
「可愛い子ちゃんなら同席歓迎だぜ?」
堂々としたナンパに目を瞬かせる。
どう?と誘う声に、少し落ち着いて、ごめんなさい、と見上げる。
「恋人を待ってるのよ」
はーん、なるほど。と頷く。
「こんな可愛い子ちゃんを待たせる男より、おじさんと遊ばなぁい?」
「ふふ。もう火遊びするような歳じゃないの」
自らおじさんと名乗る男にクスクスと笑う。
「なぁに言っちゃってんの。まだまだ知らない世界があるよ?おじさんと見てみない?」
百点満点の怪しさに、警戒心よりも面白さが勝ってきた。
ありがとう、とたっぷりとしたアフロが帽子から溢れる男を見上げる。
「遠慮しておきます。じゃないと、彼が威圧だけで人を殺せそうだわ」
上げた手が指す方をうん?と見る男。
細められたブルー・グレイ。
不機嫌そのもの、という顔で歩み寄ってきたシャンクスは、ぬ、とその長躯をジウと男の前に滑り込ませた。
「ありゃ、こりゃ」
睨めつけるシャンクスに、悪かったねぇ、と軽く手を上げ、それじゃ、と立ち去ろうとする。
「ああ、にいちゃん。そう、赤髪の兄ちゃん」
す、とジウを指差す。
「きっちり捕まえとかないと、俺みたいな悪い男に掻っ攫われていくぜ」
気を付けな、と人混みに紛れていく背中を睨んだ瞳がこちらを向く。
なにか言いたげな顔に首を傾げながらも、荷物を持つ逆の手を掴んで、おかえりなさい、と見上げると、ハァ、と大きくため息をついて握り返される。
「ジウ、今後、出掛けるときは目出し帽でも被っとけ」
「え、やだよ。不審者じゃん」
「ちょっと不審なくらいがちょうどいいだろ」
警察に声をかけられる、と不満げなジウの手を取ると、さっきから煩い視線を寄越してくる男達に一瞥くれて、離れるなよ、と引きつけた。