第5章 声-セリフ-
ベッドルームのプロジェクタが写すのは、古いモノクロ映画。
第二次世界大戦下のモロッコが舞台の友情と愛の物語。
ある、有名なセリフがある映画だ。
吹き替えで見ていた物語の途中、ジウはあれ?と耳を澄ます。
主人公の声が、妙に耳に馴染む。
ベッドの上で、積んだクッションと枕で腰を支え、壁際に背中を預けて缶ビール片手に眠そうにしている横顔を見上げた。
「ん?どうした?」
目線を寄越してくる少し眠たげな声。
話し方は似ていない。
けれど、声質がよく似ている。
「ねえ」
ジウは投げ出されているシャンクスの太ももを軽く叩く。
「真似して?」
「ん?」
彼のセリフ、とピアニストを止める俳優を指差す。
- 弾くなと言ったじゃないか -
「- 弾くなと言ったじゃないか -?」
普段通りの声でセリフを繰り返し、いいか?と見下ろす顔に、んー?と首を傾げる。
- あなたほどではありません -
「- あなたほどではありません -」
口調を少し真似た声に、似てる!と顔を綻ばせたジウに、シャンクスが笑う。
「似てるか?」
声がね、と嬉しそうなジウ。
ビールを飲み干してサイドボードに空き缶を乗せると、腰を上げてジウを押し倒す。
のしかかって、手触りのいい頬に手を滑らせると、朱が差したそこに満足そうに笑う。
じっと瞳を見つめ、映画のマネを繰り返す。
「っ!ぅっくく」
シャンクスが選んだ、いくつかの甘いセリフに、横を向くジウ。
震えている肩に、ヒクリ、とシャンクスの口角が引きつる。
「おい」
こんにゃろう、と長い腕で抱きしめて揺する。
「わーらーうーなー!」
「っふっうふふふっ無理よっ。笑っちゃう!」
似合わない、と涙目で笑うジウの鈴のような笑い声。
ジウを背後から抱いて、スクリーンに目を向ける。
「なぁ、ジウ」
「んー?」
前に回り込んで映像を遮る。
プロジェクタをリモコンで消すと、まだ笑っている耳に口を寄せる。
今度は少し、声を低く、控えめに。
「『君の瞳に乾杯』」
ん、と肩を竦ませたジウに、ニヤリと笑って暗闇の中で深く、口づけた。
END