第15章 おんりーさんの守護霊は
「はい、そうなんです。おんりーさんは?」
社交辞令のように質問を返すと、おんりーさんはちらりと視線を横に変えながらこう答えた。
「自分もです。これからドズルさんとサラダランチの予定なんですが」
「サラダランチでしたか」
この会社では、ランチをしながら会議をすることがある。私は参加したことがないので詳しくは知らないが、料理を交えながら話すとお互い本音で話しやすいのだろうとか考えられているのだとか。
それじゃあまた、と別れの挨拶を言う前にもう一度おんりーさんの周りを観察してみる。そこにはやはり、猫のネの字も見当たらない。さっきのは、空耳だったのだろうか。
「どうしたんです?」
私の沈黙が不審に思ったのだろう。おんりーさんが不思議そうに訊いてきた。
「えっと……」ちょっと聞いてみるくらいおんりーさんもあまり気にしないだろう。「おんりーさんって、猫飼ってました?」
「え、毛でもついていたかな」
「え?」
思わぬ返しに私は驚いた。おんりーさんは袖の埃を払いながら、きょとんとした顔で言ってきた。
「あれ、言ってませんでしたっけ」
「え、何を……」
「猫飼ってるんです」
「えっ」
おんりーさん宅に訪問した数はそんなにはないが、猫の姿どころか鳴き声も聞かなかった。もしかしたらリビングにはキャットタワーくらいあったのかもしれないが、リビングには入らなかったので分からない。
「どうしました?」
「あ、いえ……」私は何か言わなきゃと思った。「猫飼ってること、SNSで言ったらきっともっと人気出ますよ!」
訳の分からないことを言うハメになったのだが、まさか本当に後日SNSに猫の写真を貼るとは、この時はまだ、何も知らない。