第11章 勾玉を巡る
「え”」
そう言うなり、MENさんは急に立ち上がった。
それもそうだろう。やはり幽霊や守護霊の話をされたら誰だって困惑する、と思ってMENさんの行動の行方を見守っていると、財布を持って戻って来たから今度は私が驚いた。
「えっと、MENさん……?」
「ただでもらう訳にはいきませんよ」とMENさん。「いくらしたんですか? それとも、めちゃくちゃ高いとか?」
「あ、いえいえいえ……!」
今まさに代金を支払おうとするMENさんの手元を押しのけるように何度も丁寧に断り、ことのいきさつを説明することにした。
「私も、お金は払っていないんです」私は脳裏に、あの神社で見た景色や出会った不思議な者たちのことをありありと思い浮かべながら話を続けた。「多分あれは、形のあるものではなかったんだと思います」
多分、そんな感じがしたから。
MENさんは一瞬目を見開き、それからすぐに取り繕ってそうっすか、と呟くように返事をする。あの場所で見たものを、どう話したらいいのか私も分からなかったので、それでいいと思った。
「多分、白蛇さんは少し弱っていたのかと。だから、勾玉が必要だったのかもしれません」
と言葉を締めくくり、ちらりとMENさんの肩から肩へぶら下がっている白蛇さんを見やった。
白蛇さんは今日はずっとその姿のまま、時折舌を出しながらこちらを見据えるばかりだった。鎌首をもたげた姿勢だが、こちらに敵意がないのはその黄色い目を見ればよく分かる。この白蛇さんこそMENさんの守護霊なのだと思うと、とてもよく似合う気がした。
「そう、すか……その、白蛇ってのは今日は何か喋ってるんです?」
少し信じ難いような複雑な表情でMENさんはそう聞いてきた。私は首を振った。
「いえ、今日は何も……今日はずっと蛇の姿のままなんです」
どうやら白蛇さんは、人の姿以外はこちらと同じ言葉を話せないらしい。それほど、疲弊していたというのだろうか。それがMENさんの運気や体調を左右していたのかまでは分からないが……。
「大事にしますわ」
MENさんがそう言って、私が差し出した勾玉を受け取った。私は会釈を返した。
「お力になれたのなら嬉しいです」