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イケメン戦国《私だけを囲うひと》

第10章 もっと近くで



「どうした?」

すぐ近くで、低く落ちる声。

顔を上げた瞬間、また距離が縮まる。
逃げる暇もなく、視線を絡め取られてしまった。

「……なんでも、ありません」

本当は、なんでもなくなんかない。
心臓がうるさくて、顔が熱くて、
こんな風に振り回されてる自分が悔しいだけだ。

けれど、そんなこと言えるはずもなくて。
私は視線を逸らそうとした。

その時——

「そう逃げるな」

すっと、顎に指がかかる。

「……っ」

軽く持ち上げられて、また目が合う。
今度は逸らすことも許されなかった。

「お前は、すぐ顔に出るな」

「出てません…」

「出ている」

弱々しく答えた私の声は、光秀さんにかき消された。

しかも、どこか楽しそうに。
まるで、私の反応を全部見透かしているみたいに。

「近いと、意識するのか?」

「……っ、それは……」

言葉に詰まる。

だって、そんなの——
“はい”って言ってるようなものだ。

沈黙した私を見て、光秀さんはまた喉の奥で笑った。

「……図星か」

「違います…!」

反射的に否定するけれど、説得力なんて、きっと欠片もない。
だって、こんなに顔が熱いのだから。

「まあいい」

そう言って、ふっと距離が離れる。

あ、と思った時にはもう遅くて。
さっきまで近すぎたはずなのに、
今度は逆に、その距離が物足りなく感じてしまった。

「……あれ」

自分でも気づかないくらい小さな声が漏れる。
その瞬間、光秀さんの目が細くなった。

「なんだ。離れると不満か?」

「ち、違います!」

「ほう?」

完全に遊ばれている。
わかっているのに、うまく返せない。

悔しくて俯いた私の頭に、
ぽん、と軽く手が乗せられた。

「安心しろ」

「……え?」

「悪い奴には、そう簡単には騙されはしない」

からかうような口調なのに、
その声は、ほんの少しだけ優しかった。

「……俺が見ているからな」

その一言に、
胸が、ぎゅっと締めつけられる。

——それはずるい。

そんなこと言われたら、
また期待してしまう。

特別なんじゃないかって。

「……光秀さんは」

思わず、口にしてしまう。

「なんだ?」

「どうして、そんな風に……」

——優しくするんですか。

続きの言葉は、飲み込んだ。


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