第10章 もっと近くで
人のテリトリーに入って来るのが上手い人だと思った。
パーソナルスペース…と言った方が正しいのか。
光秀さんは、いつも距離が近い。
でも、不思議と嫌じゃない。
光秀さんが側に来るたびに、私は好かれているのかもしれないと錯覚を起こし、嬉しい気分になるくらいだった。
「あ、光秀さん…!さっき信長様から…」
信長様から言伝を頼まれた私は、光秀さんを見つけて駆け寄った。
光秀さんは私を見て、ふっと笑った。
「ん?」
そう言って、背の高い光秀さんは私に身体を寄せる。
私の声が届くように、顔を近づけてくれてくれているんだ。
わかっている。
光秀さんに意識されていないことなど。
でも…でも…
ち、近い。
光秀さんの長い睫毛と透き通った肌を間近に見ながら、私はどんどん恥ずかしくなってくる。
私は、少し俯きながら光秀さんを見上げた。
「あの、私の声ってそんなに聞こえにくいですか?」
「……なんだ。嫌か?」
「いやってわけじゃないですけど。その…近すぎませんか?」
「気のせいだろう」
…え?!気のせいなの?
私、過剰に反応しすぎ?
光秀さんに何でもないように言われ、自信がなくなる。
そう、なの?
これって普通…?
「そう、ですか…」
そうよね。
光秀さんは距離の近い人だった。
意識する私が間違ってたんだわ。
私が一人、頷いて納得していると、光秀さんの笑い声が聞こえた。
あの、クククっていう笑い方。
「…光秀さん。何笑ってるんですか?」
「安土の姫は、素直すぎてな。悪い奴に騙されないか心配だ」
「騙されていません!」
「くくく…」
いつも意地悪く光る目が、柔らかく細まる。
そんな風に愉しそうに笑わないで。
怒りにくくなる。
光秀さんが笑ってくれるなら、おもちゃにされてもいいかなって…
そう思ってしまいそうで
…困る。