第1章 本編
雅利と悠里は水族館に来ていた。
「はぐれないように、だから」
何だか恥ずかしくて、雅利はそっぽを向いた。
「そういうことにしておいてあげる!」
いたずらっぽく笑う悠里に、
雅利は自分の心を見透かされているような気がした。
「イルカの触れあいは、こっちだよ!」
「ちょっと、待ってよ!」
会場のお姉さんが、一声を放った。
「イルカに餌をあげたい人~」
「はーい!」
と、悠里が自分の手ではなくなぜだか雅利の手を挙げた。
「ちょ、悠里ちゃん、何やって…」
「はい、じゃあ、後ろの席に座っているお二人!
お願いします!」
悠里と一緒に指名されてしまった。
イルカの近くまで行き、トレーナーの指示に従って、
餌をあげる。
初めての体験のため、幾分緊張したが、イルカは美味しそうに餌を食べていた。
その後、お礼を言っているのかは分からないが、イルカが尾びれをヒラヒラさせている。
「ショー楽しかったね、雅利君」
「そうだね。次は魚を見ようか」
「うん!」
次に二人は、クラゲのコーナーにいた。
「雅利君、見て。このクラゲ、光っているよ」
小さい水槽でぷかぷかとクラゲが泳いでいる。
「綺麗だね」「だよね! 泳いでいるところ、可愛いなぁ」
薄暗い中で、白く綺麗に光っているクラゲたち。幻想的だ、と雅利は感じた。
それから悠里に手を引かれるまま、大水槽に移る。
そこにはジンベイザメやエイ、
色々な種類の魚が泳いでいた。
魚や水槽の近くにある説明書を見ながら、
二人は水族館を楽しんだ。
「楽しかったね! 今日はありがとう」
水族館を出た後、悠里は満足げに笑顔でそう言ってくれた。
「あれ? 雅利君は、楽しくなかった?」
すぐに答えなかった雅利に、
悠里は不安そうにこちらを振り返った。
その隙に。
雅利の唇に温かいものが触れた。
「とても楽しかったよ。ありがとう、悠里ちゃん」
「き、キスするときは言ってよ!でも…嬉しい…」
悠里は恥ずかしいようで、赤い頬を両手で包み込んだ。
「また出かけようね」
「うん。今日買ったシャーペン、早速学校で使うね」
「うん、わかった」
たわいない話をして、水族館を後にする。
今日一日、可愛い幼馴染である悠里に会えて、
とても幸せだったと、雅利は思うのだった。