第1章 序章
当時、両親が亡くなってから競うように今まで以上に良くしてくれるようになった親戚たちが不思議で仕方がなかった。
しかしある一件以来、家業に引き入れるためなのだと気づいてから合点がいった。
それはほんの些細な出来事であったけれど、それからというもの、当主の祖父含め親戚は苦手だ。
だからといって私が逃れる術もない。
今、私が手にしている自由は彼らによる未来への投資なのだ。
なるべくたくさんの恩を着せて、私を従事させる。
単純なことだ。
私が逃げないように今住んでいるマンション付近には監視のための包囲網が敷かれている。
有事に備えて私にバレないように用心棒だってつけられている。
おそらく大学側にも口添えしているだろう。
全てが整えられたひどく大きな籠の中だとわかっていても、私は今の生活を手放すのが惜しい。
少なくとも息ができるから。
昔の息苦しさに比べればずっと楽だ。
過去のことを思い返しながら屋敷を見ているとまたため息がこぼれる。
早く用事を終えて帰りたい。
そう思いながら門の前で私は呼び鈴を鳴らした。
いくら親戚一同が集まるからといってわざわざ実家まで呼ばれたことはここ3年のうち、1度もなかった。
ただ学生生活を送っているだけの私に対して実家側から伝えたいことは特にないはずであるし、私だって言いたいことなんてない。
そもそも私には常に見張りがついているわけで、わざわざ呼び寄せてまで私の様子を知りたい理由なんて実家にはないのだ。
考えられる理由としては実家の方で何か大事があったのだろう。
しかし呼び出されたときの電話口では詳細を教えてもらえなかったものだから私には全く見当もつかない。
呼び鈴を押してから数秒して開いた門を通り抜けると私は玄関へと向かった。