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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






お智ちゃんは、翔吾さんが帰って行った方をじっと見つめている

その横顔は、恋する乙女、そのものだ



にの江「……お智ちゃん」


お智「はい」



あたしは、心を鬼にして幸せそうな笑顔のお智ちゃんに言った



にの江「もう、翔吾さんと逢うのはおよし」


お智「……………え?」



お智ちゃんの可愛い目が、戸惑いにうるうると揺れる

あたしはそれでも構わずに、続けて言った



にの江「これ以上逢うのは、ご自分がお辛くなるだけで御座いますょ

……智子姫」


お智「!!!////」



真の名を呼ばれて、驚きに潤んだ瞳が見開かれる

あたしは、驚愕して震えるお智ちゃんの手を握った



にの江「……姫、どんだけ好き合っておいででも、貴女様は、大名の姫君

いづれは、名のあるお殿様の元へと嫁がねばならない御身で御座いましょう

これ以上逢瀬を繰り返しても、ただただ別れがお辛くなるだけで御座います」


お智「…何故……何故、そのようなコトを…///」


にの江「姫様の御為に御座います。ですから、もう翔吾さんとは…」


お智「イヤです!////」



お智ちゃんは、あたしの手を振り解いた



お智「イヤで御座います!

私はお屋敷になんか、戻りません!

見知らぬ大名の元になんか嫁いだり致しません!!

どうしても翔吾さんと一緒になれないのなら、一生独りでおりますっ!!////」


にの江「お智ちゃん!」


お智「にの江姉さんのばかっ!姉さんだけは解って下さると思ったのにっ!!////」


にの江「!!!」



お智ちゃんの言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる



にの江「お智ちゃん…」


お智「……うぅっ……翔吾さん……翔吾さん……」



両手で顔を覆って、しくしく泣きながら愛しい人の名を呼ぶお智ちゃん



にの江「……お智ちゃん」



…どうしようも、居たたまれない気持ちで、胸が締め付けられる



翔吾「お智ちゃあ~ん!」



泣きじゃくるお智ちゃんの肩に手を置こうとしたら

何故か翔吾さんが慌てた様子で走って戻って来た




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